はじめに「患者さんと家族の方へ」 |
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はじめに優れた耐用性のある人工関節の材料や手術方法については、すでに皆様にお渡ししている
小冊子やホームページ等で見られて、よく理解されたことと思います。
更に、人工関節手術を受けられる前に、人工関節の耐用性以外に手術に関すること、手術後の生活など、
すべてに関して、十分に理解していただくことが大変重要なことです。
これらについて、この小冊子にまとめてみましたので是非熟読下さい。
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[A] 手術により発生する合併症 |
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1) 感染感染には、手術直後におこる感染と手術後半年以上たってからおこる感染があります。
前者を早期感染と呼んでいます。予防方法として、手術直前より抗生物質の点滴をし、
手術はクリーンルームで行い、感染防止に関するすべての注意をはらっていますので、手術直後に
おこる感染は極めてまれです。
手術後半年以上たってからおこる感染をちはつ遅発せい性感染と呼んでいます。
これは手術後20年以上たってもおこり得ます。 遅発性感染の発生頻度は極めて低いのですが、0ではありません。
この原因としては、体内に菌を持っている場合、例えば、まんせい慢性ぼうこう炎、胆のう炎、
その他、化膿巣(オデキ等)などがあります。これらの菌が人工関節の部分にくっつくことにより
感染がおこります。これらに対しては、見つけ次第早期に治療しておかねばなりません。
また、糖尿病があると、感染に対して抵抗力が低くなり、感染にかかる率が高くなります。
そのため、常に糖尿病に対してのコントロールをしなければなりません。
歯の治療、特に歯そうのうろ、むし歯などで抜歯する時には、抜歯直前より抗生物質を使う方が安心です。
2) 静脈血栓塞栓症
Q.肺塞栓症とは、どんな病気ですか?
A.肺塞栓症は、命にかかわることがあります。
多量の血栓(血のかたまり)などが、肺の血管に詰まると、呼吸困難や胸痛、
時には心肺停止を引き起こすことがあります。これが肺塞栓症で、いったん
発症すると致死率が30%を超える重篤な病気です。近頃話題の、長時間の
飛行機旅行などで起こるといわれている「エコノミークラス症候群」と同じ物です。
肺塞栓症は、深部静脈血栓症の合併症といえます。
手術後の起こる肺塞栓症の原因のほとんどが、足の太い静脈(深いところにある静脈)
にできた血栓(深部静脈血栓)です。その血栓が、血液の流れにのって心臓から肺に至り、
肺の動脈を詰まらせてしまうのです。 つまり、肺塞栓症のリスクを下げるためには、
深部静脈血栓症を予防することが必要です。
Q.どんな時に、発病しやすいのですか?
A.血栓のできる主な原因は、下肢血流の停滞です。
長い間寝たきりの状態(長期臥床時)、および一時的に動けない状態(手術後)の時には、
下肢筋肉のポンプ作用が弱まっているか、あるいは機能が完全に停止していることがあります。
そのために静脈が拡張し、血流速度が著しく低下することで血液が擬固しやすくなり、発症のリ
スクが高まります。
Q.体型、年齢などが関係あるのでしょうか?
A.下の項目にあてはまる人は手術や長期臥床により発症リスクが増大するため、特に注意が必要です。
◆ 比較的高齢者
◆ 肥満の人
◆ 妊娠している人・出産経験のある人
◆ 女性でピル(経口避妊薬)を服用している人
◆ 先天的に、または薬物などにより血液が固まりやすくなっている人
◆ 心疾患、悪性腫瘍、脳卒中などの既往歴がある人
◆ 喫煙者
Q.どのような予防法があるのですか?
A.脚の静脈に血栓ができることを予防するためには、血流のうっ滞を避ける必要があります。
下肢挙上(足を高くする)など脚の運動をはじめ、圧迫ストッキング、弾性包帯および空気式圧迫ポンプ
を用いて脚を圧迫する物理療法、ヘパリン、ワルファリンやアスピリンなどを用いて血液を固まりにくくする
薬物療法など様々な方法がありますが、なかでも圧迫ストッキングなどで血流を促進させるのが、副作用も少
ない手軽な予防法です。
主な予防法
◆ 圧迫ストッキングの着用
市販の下肢圧迫用ストキングです。手軽に着脱でき、理想的な圧迫力を得るように調整されています。
◆ 下肢運動
血行を促進させるために、両下肢の運動をします。
◆ 弾性包帯の装着
下肢筋肉のポンプ作用を増強させます。理想的な圧迫力に調整して巻くには、熟練した技術を要します。
◆ 圧迫ポンプの使用
電気ポンプにて、下肢に巻いた加圧カフに一定のリズムで空気を送り込み、血液が
流れやすいように下肢を圧迫します。
◆ 抗擬古剤の内服・注射
◆ 水分補給
3) 出血 心臓など特に問題の無い患者さんには低血圧麻酔(血圧90mmHg)で手術を行いますので、
出血は多くありません。しかし、心臓などに問題のある患者さんに低血圧麻酔を行いますと、
心臓への負担がかかり、危険性がありますので、あまり血圧を下げずに手術を行います。
そのために、出血量が多くなり、自己血のみでは不足する場合があります。
関節の炎症症状が強い場合(この場合、手術前からの痛みが強い場合が多いです)も、
出血量が多くなる傾向にあります。
血管を損傷した場合にも、出血が多くなることがあります。血管の通っている場所は各人異なります。
大部分の人たちは、それ程変わりはありませんが、数パーセントの人にはかなり異なった場所を通って
いることがあり、このような場合に血管の損傷をおこすことがあります。 輸血が必要になった場合、
他人の血液(日赤の血液)を輸血しなくてもいいように貯血式自己血輸血を行いますが、上記のような理由で
貯血した自己血よりも多くの出血をすることがあります。この場合も、なるべく他人の血液を輸血しないよう
にしますが、他人の血液の危険性(まれにウイルス感染など)よりも輸血をしない方がはるかに危険性が高いと
判断した場合には、他人の血液を輸血することがあります。特に高齢者の場合が多く、可能性は1%ぐらいです。
4) 神経麻痺> 麻酔時、手術中、手術後に神経麻痺をおこすことがあります。これらの発生する麻痺は非常に低いの
ですが、0ではありません。主な神経麻痺は、坐骨神経、腓骨神経、大腿神経におこります。
これらが発生する原因はいろいろ考えられます。 出血の問題の所で述べましたように、血管と同様、神経が
通っている場所も、各人皆異なっています。数パーセントの人には、特にかなり異なった場所を通っている
場合がありますので、神経に触れることもあります。更に、神経が引き伸ばされた場合、神経の伸びが悪い
人は、少し伸ばされても影響を受けやすく、そのために神経麻痺がおこることがあります。
血管についても同じです。
以上述べましたように、神経の走っている場所が異常であり、更に、神経の伸びに影響を受け易い人は、
神経麻痺の発生率が高くなります。 手術時、脚の長さ(下肢長)を長くした場合、血管、神経、更には筋肉、
腱も伸ばされ、この場合、特に血管、神経は影響を受け、手術後、血流障害、神経麻痺などが発生するこ
とがあります。これらの発生頻度はかなり低いのですが、0ではありません。 手術中に長時間膝を曲げて
いますと、膝の外側を通っている腓骨神経を引き伸ばされる時間が長くなり、また圧迫されていたりしま
すと、腓骨神経麻痺をおこすことがあります。
術者は常に注意しておりますが、神経の伸びの悪い人や異常な神経の走行をしている人は通常よりおこり
易く、手術中に術者は細心の注意を払っております。 麻酔が十分にさめない間に病室に帰った場合、膝の
外側に走る腓骨神経を圧迫し、腓骨神経麻痺をおこすことがあります。これを予防するため、膝よりやや
大腿部側に丸めたタオルやクッション等を入れて、神経を圧迫しないように注意しています。
また、弾性ストッキングの端の部分が、腓骨神経の部分を圧迫しますと、腓骨神経麻痺をおこすことがあ
ります。このようなことがおこらないように、私たちスタッフは常に気を配っております。
麻痺の症状としては多くの場合、足くび(足関節)を自分の力で動かせなくなります。
また、膝より下(下腿)の外側部分や足の背面(足背部)、時には、大腿部や下腿部の一部分にしびれ感
(知覚麻痺)や痛みを感じることがあります。これらの麻痺、特に動きの回復には、大体3ヵ月〜1年、
時には3年かかることがあります。
しびれや痛みは、動きよりも早く回復します。 足くび(足関節)に力が入らないと歩きにくく、特に
階段の昇降が困難になりますので、歩き易くなるまで、関節を固定する装具をつけたままで歩いていた
だきます。
5) 手術後の脱臼 手術した後、関節周囲の筋肉などの軟らかい組織が安全な状態にかたまるには約3ヵ月を要します。
従って、それ迄の間に転倒したり、無理な肢位(足の位置)を急激にとったりしますと、脱臼することがあります。
筋力があり、自制できる人は脱臼することはありません。特に、高齢者や関節リウマチの患者さんのように、
手術前から筋力が非常に弱い人、転倒しやすい人、手足で体を十分に支えることのできない人などが転倒したり、
低い椅子やソファーに急激に坐ったりした時に、脱臼することがあります。脱臼した人には、約3ヵ月間股関節の
固定装具をつけてもらいます。
これをつけたまま歩いて外出できます。脱臼をくり返す人には筋肉を引き下げる手術をすることもあります。
また、手術をして5年以上の長期を経過し、高齢になってきますと、体全体の老化がすすみ、筋力が弱り、関節周
囲の組織も弱くなっていきますので、無理な体位・姿勢を急激にとりますと、股関節脱臼することがまれにあります。
6) 骨折
高齢者や関節リウマチの患者さんのように、骨が非常に薄く、もろくなっている場合、しかも、関節が動き
にくく、かたくなっている場合、手術中に骨折をおこすことがあります。 人工関節は、金属やセラミックか
らできています。
これは骨と比べますと大変硬いので、術後、階段から落ちたり、転倒したりしますと、人工関節と骨とのつ
なぎ目の近くで骨折することがあります。これは、特に、高齢者やリウマチの患者さんのように、骨のもろく
なった人によくおこります。
このような人は、階段の昇降に注意すること以外に、家の中で電気のコードや敷物の端でつまずかないよう
に十分気をつけて下さい。
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[B] 人工関節手術をいつすればいいのか |
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人工関節以外に治療方法が無く、しかも痛みのために、日常生活や仕事に支障がある場合に
人工関節手術が必要になります。また、関節の動きが悪く、しかも、関節が不自由な位置でか
たまっているために、日常生活に支障がある場合にも人工関節手術を行えば、日常生活がしや
すくなります。 手術をする時期は、患者さんが、日常生活が不自由で仕事もできないので困り、
患者さん自身が望む時に手術をすればよいと思います。レントゲン写真でどんなに悪くても痛みが
軽い人、それ程悪くなくても痛みがひどいために日常生活に困る人もいますので、レントゲン写真
の状態だけで決めることはできません。また、手遅れはありませんので、家庭、会社などの都合に
合せて決める方が安心して手術を受けることができます。
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[C] 両方の関節が悪い場合、どちらの関節から手術をした方がよいのか |
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両方の関節が悪い場合、レントゲン写真の状態は必ずしも決定する判断の基準にはなりません。
痛い方から手術する方が好ましいと思われます。 その理由は、両側の関節が悪く、一方の関節の
方が、長年痛みが強く、レントゲン写真でも他側よりも悪い状態がつづいている場合、この状態で
長期間過ごしている間に比較的痛みの少ない方の足に負担がつづき、その結果、はじめに痛みの強
かった方の関節の痛みが次第に軽くなり、逆に痛みが軽かった方の関節の痛みが強くなりはじめ、
しかも関節の破壊が進行しはじめることがよくあります。 この場合、最初に痛かった方の関節の
手術を先に行なっても、他例の関節の痛みが止らず、その結果、両方の関節の手術をせざるを得な
くなる場合が多いです。しかし、後になって痛みが強くなった方の関節の手術を先に行えば、反対
側の手術をしないで済む事の方が多く、従って、手術の直前に痛い方の関節の手術をするようにしています。
例えば、手術を申し込んだ側の関節とは反対側の関節の痛みが手術直前に強くなれば、痛みの強
い方を先に手術する方が望ましいと思います。手術当日、手術室に入ってからでも変更することができます。
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[D] 手術後に関節付近に軽い痛みを感じる人がいますが、その原因は |
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手術直後は、手術したための炎症があるので、手術した部分がは腫れ、痛いのは当然です。
特に、膝の場合、皮膚が人工関節や骨に近いので、股関節よりも腫れや、痛み、熱感(あつい)
が長く続き、時には、手術の部分に軽い痛みと熱感が半年間位続くこともあります。
股関節では、大部分の患者さんには、1ヵ月前後で、傷の痛みがほぼ完全になくなり、
ほとんどの人は1年以上経過すると、手術したことを忘れ、ステッキを使わないで歩行しています。
手術前から筋力の弱い人は、手術後も筋力の回復に時間がかかり、体重をかけ過ぎたり、重い物
を持ったり、長時間歩いた後に関節の周囲の筋肉に疲労がたまり、痛みがでてきますが、次の日に
は回復しています。また、当分の間、杖を使わないで歩けない場合もあります。 関節の構造として、
関節を動かすために、関節を間にはさんで、筋肉が橋渡しとなり、この筋肉の両端が骨に付着しています。
この筋肉の両端が腱になっていて、この腱が骨に付着しています。骨に付着している腱の部分で強
く引っぱられると、この付着部分に炎症がおこり、痛くなることがあります。 その原因としては、
手術前まではあまり使っていなかった筋肉が手術後急激に使われるようになり、この腱の部分が引っぱら
れることが増えるために炎症が強くなり、痛みを感じると思われます。
また、手術により、周囲に炎症が残っていて、その一部が腱にもおよんでいるために痛みを感じることもあります。
また、股関節の手術後、脚(下肢)が長くなった場合、筋肉が引き伸ばされ、これが骨に付着している
腱にまでおよんで痛くなることもあります。
股関節において、痛みを感じる部分は、
@股関節の後にある腱(外旋筋腱)、
A股関節の外側に突出している骨より、やや上方部(大転子に付属している筋肉部分)、
Bいすに坐る時に当る左右の骨の部分(坐骨に付着している筋肉の腱)、
C股関節よりやや上方にある突出している骨盤の骨に付着している腱などです。
また、殿筋に急激に負担がかかり、これが、坐骨神経に影響して、殿筋の上方部(坐骨神経の痛み)に
痛みを感じることもあります。
また、歩行時に人工関節が骨の中で1ミリの100分の1以下という微小の動きをしても、大腿の外側部に
軽い痛みを感じる場合があります。これは骨セメントを使わないセメントレスの場合によくみられます。
これらの痛みの程度や、痛みが続く期間は人によって様々です。
治療法としては、基本的には、筋力の強化とあたためることですが、過度の負担をかけないことも大切です。
時々の鎮痛剤を使用すること、時には、痛い部分に副腎皮質ホルモン剤と局所麻酔剤を注射するのも効果的です。
膝関節においては、膝関節の内側に付着している腱、膝の皿(膝蓋骨)の下についている太い腱(膝蓋腱)が膝の下の
骨(脛骨)に付着している部分に痛みを感じることがあります。
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[E] 高齢の人、特に、一人暮らしの高齢の人が人工関節手術を受ける場合 |
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高齢の人が手術を受けた後に、全身麻酔の影響や脳や心臓への血流障害の影響があったり、
また、手術後、数日間十分に身体を動かさないために、精神的にも肉体的にも不安定となり、
おとろえることがあります。また、手術前には気付いていなかった病気、例えばパーキンソン
氏病などいろいろな病気が手術後に悪化することもあります。 また、手術による合併症
( [A]で述べた通り)が発生しても、若い人たちは回復も早いのですが、高齢の人の回復能力が
低いために、回復がかなり遅れるばかりでなく、完全に回復しないこともあります。
これらの発生頻度は極めて少ないのですが、このような結果になりますと、一人暮らしができ
なくなりますので、これに対する対策もよく考えた上で、手術を受けられることが大切です。
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[F] 再手術(再置換術)が必要となる主な原因 |
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人工関節に優れた素材が用いられ、また、骨との固着方法の改善によって、比較的若い人たち
(30代〜40代)が、手術を受けられても、再手術に至ることは少ないと考えています。
しかし、何度も転倒したり、階段から落ちるなどの大きな衝撃が幾度も繰り返し加わった場合は、
人工関節の破損や人工関節がゆるむことも考えられます。 また、合併症で述べたように遅発性感染
のために再手術が必要となる可能性も0ではありません。
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[G] 退院後の日常生活、社会復帰はいつ頃から |
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手術後、特殊な経過をたどった人以外の大部分の人たちは、再手術(再置換)であっても手術後
3週間で退院しています。 手術した周囲の筋肉・腱・筋膜・脂肪などの軟らかい組織が修復し、
関節の周囲を強く取り巻き、固まるには手術後約3ヵ月かかります。従って、退院後、手術 して
約3ヵ月以内に筋肉の弱い人が転倒したり、急激に低いイスやソファーなどに坐ったりすると、人
工股関節が脱臼することがありますので、注意が必要で す。しかし、股関節の場合関節周囲の組
織が固まってしまいますと、ほとんどの人は、和式の生活がすべてできるようになります。
例えば、しゃがんだり、和式 トイレに行くこともできます。正座は入院中にできる人もいます。
膝関節の場合は洋式の生活(イス、ベッドの生活)をしなければなりません。 退院直後でも、注意し
ながら少しずつ炊事などをすることができます。また、1本のステッキで外出もできます。
毎日少しずつ、日常動作を増やしていって下さ い。筋力によって異なりますが、ステッキは邪魔に
なった時点で、はずしてもらってもかまいません。
日常生活で、どの位の重さの物まで持てるのかを全員の人が心配されています。
これは、体格、筋力等によって大変異なりますが、一般的には、普通の日常生活 ができます。
筋力の弱い人でなければ、時々20〜30kgの物を持ち上げることは問題ありません。また、時々10kgの
物を持ち運びするのも問題ありません。買物などで毎日5〜6kgの物を持つのも問題ありません。
しかし、毎日、10kg以上の物を持ち運びする仕事をする事は十分できますが、あまり好ましくありません。
社会(職業)復帰の時期については、手術を受けられた多くの人が心配されていることです。
これは仕事の内容、通勤の方法によって大変異なります。 仕事の内容として、例えば自営業で、
イスに坐っているだけであれば、退院の翌日より少しずつ、仕事ができます。
車を利用できる人も同じです。一般には、通 勤の方法にもよりますが、退院後1ヵ月位で大部分の
人は仕事に復帰しています。 退院後3週間前後で、車の運転をこころみて、運転に自身ができれば、
車で通勤できます。駅の階段が多い場合、長距離歩かなければならない場合は、一度通勤を試してみ
ることも一つの方法です。この場合でも、自信があれば退院後1ヵ月位で仕事に復帰できます。
仕事の内容については、体格、筋力、年齢などによって大差があります。仕事の量も、特に、
長時間立っている仕事や、動きまわる仕事では徐々に増やすことも大切です。
重量物を持つ場合、時々であれば、20〜30kgは大丈夫ですが、毎日、長時間持つのは好ましくありません。
毎日、長時間持つのであれば、10kg以内が 無難です。しかし、筋力の弱い人、高齢の人には、これらの
重量物を持つことは好ましくありません。 以上、一般的な基準で述べましたが、手術の内容や手術の経
過などによって、これらの基準に必ずしも当てはまらない場合もありますので、先ずは医師とよく相談して下さい。
再手術を受けることがないように、十分注意することが最優先です。
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[H] 手術後、どの程度のスポーツができるのか |
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スポーツに関してもかなりの個人差があります。また、股関節よりも膝関節の方がかなりの制限があります。
一般には、毎日の散歩、旅行(国内、海外)、ハイキング等は普通にできます。本格的な登山は好ましくありません。
時々のジョギングは大丈夫ですが、毎日、ジョギングするのは好ましくありません。
ゲートボールや時々のお遊び程度のゴルフ、バレーボール、テニス等については、できそうであれば行ってもら
ってもそれほど問題はないと思いますが、本格的にすることは好ましくありません。
その他の運動、スポーツについても、以上述べましたことを基準にして考えていただければ結構です。
これらのスポーツをする前に必ず、先ず医師とよく相談した上で行って下さい。
しかし、どこか痛みを感じたり、違和感を感じるようであれば、これらのスポーツは好ましくありませんので、
十分注意して下さい。再手術を受けることがないように十分気をつけることが最優先です。
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[I] 最後に一言 |
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人工関節手術を受けられた大部分の人たちは、3週間後に1本ステッキで退院し、また、退院して1ヵ月後には、
仕事に復帰されている場合が多いので、手術 そのものが簡単であるように錯覚されがちですが、手術の大きさ
の程度は、以前と全く変わりなく、”人工関節手術は大きな手術である”ことを認識しておいて下さい。
手術を受けられた患者さんが、早く社会復帰できるのは、手術の方法、手術後の管理、手術後のリハビリテー
ション等すべてが、一体となって工夫されているからです。
一度、人工関節手術を受けられた患者さんにとって最も重要なことは、再手術を受けることがないように、
日常生活に十分注意することです。
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