「超長期耐用をめざしたインプラントと骨との固着を語る会」
●はじめに
  現在においても人工関節の寿命は40年以上前と変わらず、 平均15年前後といわれています。 これは、わが国の多くの整形外科医はあまりにもアメリカの人工関節手術を過信しているところにも 原因があります。

現時点で、人工関節の寿命を支配する主役は人工関節の関節同士がすれ合うことにより 発生する摩耗と、もう一つは骨が老化してもろくなった後でも、人工関節と骨がいつまでもゆるまず、 くっついていてくれる骨と人工関節との固着であります。

摩耗に関しては40年近く前に使われていたものが、一時、見捨てられて、 一部の整形外科医が使い続けてきたものや、一時は使われていていなかったものが 材料・製品改良によって復活し、これが、摩耗が極めて少なく、 極めて優れた人工関節として現在の主役になってきています。

もう一つの大きな問題点である人工関節と骨との固着に関しては、 世界ではいろいろな方法が用いられ、未だに世界一般的には寿命は15年前後であるといわれています。

そこで、人工関節に興味を持っておられる全国の整形外科医の有志が集まって、多くの意見を出し、 語り合うことにより、より優れた方法を追求する会、 すなわち「超長期耐用をめざしたインプラントと骨との固着を語る会」を2006年に発足しました。

この語る会で発行した記録集の中での「巻頭言」を転載します。

 

●巻頭言
  人工関節の寿命を決定する主役は、摩耗と骨との固着である。 摩耗に関しては、従来のポリエチレンソケットであっても厚さ10mm以上のものを使用すれば、 8mm以下のものよりも約2倍減少し、30年以上は耐用しうる。 Charnleyや筆者の人工股関節の成績がこれを証明している。 更にcross-linkポリエチレンソケットを使用すれば、更に数倍以上の耐用に期待がもてる。

Cross-linkポリエチレンの場合、100Mradを照射すればクリープ変形が 著しく減少するが、10Mrad以下の照射ではクリープ変形は全く解消されず、 8mm以下のポリエチレンを使用すれば摩耗が増量し、頚部とのインピンジメントなどにより 破損と摩耗の問題が発生するであろう。 したがって従来のポリエチレンと同様、10mm以上が安全である。 セラミック/セラミックの場合、セラミック(アルミナ)の厚さと大きさが、 ある一定以上必要であり、薄く小さくすると破損する。 ソケットの厚さ10mm以上、骨頭径32mm以上が理想であろう。 骨頭径が小さいと瞬間的な亜脱臼とmicroseparationを繰り返す危険性が高く、 これが衝撃力として働き、また頚部とソケット間でインピンジメントをおこしやすく、 破損の原因や摩耗増量の原因にもなる。32mmを使用すれば、 ソケットの外径が大きくなり過ぎて日本人の女性に使用できない場合も少なくない。

また関節内に異物が介入するthird body wearを考えると、 金属骨頭よりもセラミック骨頭を使用したほうが、 ポリエチレンの損傷と摩耗に関してはるかに有利である。 人工膝関節では、対金属より対セラミックのほうがポリエチレンの摩耗が少ないのは シミュレータ試験や臨床結果でも明らかである。 しかしたとえ靱性に優れたジルコニアであっても、「もろさ」という弱点があり、 デザインに制限がある。 近年、金属表面にジルコニアが存在する酸化ジルコニウム(オキシニウム)が 欧米では広く使用されはじめている。これには「もろさ」の問題がない。 しかし、長期成績はまだわかっていない。

骨との固着に関して現時点では、セメントレスであっても骨セメント法を超えることができていない。 超長期に耐用するには、骨の老化や骨粗鬆症の発生後も、 インプラントと骨との界面に骨形成が持続されなければならない。 これまでに、インプラントと骨との界面に骨形成を促す種々の方法が提案されてきた。 しかし大部分は手術後早期より骨形成されるが、材料が流出・吸収され、長期間残存せず、 長期後には有利な働きをしていない。 現時点では、吸収されず骨伝導作用をもつ結晶性ハイドロキシアパタイト(HA)が 目的にかなった材料であろう。その意味でHAコーティングが行われているが、 コーティングされたHAはアモルファス(非結晶性)も含まれているために、 十数年後には吸収されてしまうので目的にかなっていない。

我々は1979年頃より、住友グループと共にHAコーティングの研究開発を行なってきたが、 コーティングされたHAが吸収されることがわかり、開発を断念した。 HAが吸収されないためには結晶性HAが必要であり 、 しかもストレスシールディングの発生を少なくするためには骨セメントの使用が理想的である という考えから、手術中に骨と骨セメントの間に結晶性HAを介在させる 界面バイオアクティブ骨セメント(interface bioactive bone cement:IBBC)法を考案し、 動物実験を重ねたあと、1986年より臨床応用をはじめた。長期臨床例において、 骨透亮像はほとんど出現していない。 また、骨融解が生じはじめてもHAの骨伝導作用により骨融解が修復され、 ほとんど進行しない。しかしこのIBBC法は骨セメント手技と同様やや手技上の難しさがあるので、 インプラント表面に骨形成を促す材料が存在し、 これが吸収されても骨形成材料が再び形成されるような材料がより理想的である。 その1つとして今回、京都大学から発表されたアルカリ・熱処理による生体活性チタンに期待される。 これも20年以上の長期成績を見なければならない。

結論として、極めて低摩耗の人工関節と超長期間、骨粗鬆症発生後も、 骨とインプラント界面に骨形成を持続する骨との固着法を選択すれば、 人工関節の寿命は、現時点で少なくとも40年以上は耐用しうる。

著:富永病院院長・大西啓靖(医療法人寿会富永病院 大西啓靖記念人工関節研究センター)

 

 
 
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