バイオセラミックス(Bioceramics)」
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(A)国内外におけるバイオセラミックス研究会・学会のあゆみ
(B)われわれが行って来たセラミックス人工関節・人工骨の変遷
(C)われわれが研究してきた、又は臨床応用してきたバイオアクティブセラミックス

 

 

(A)国内外におけるバイオセラミックス研究会・学会のあゆみ
  私のバイオセラミックスとのはじめての出会いは、1971年にフランス整形外科学会での人工股関節シンポジウムにシンポジストとして加えていただいた時、 P.Boutin先生(ポー/フランス)がアルミナ/アルミナの人工股関節を講演されたのを聞いた時です。この講演内容には大変興味を引かれたことを今も 明確に記憶しています。 その後、1973年に「人工関節に用いられる生体材料のバイオメカニカルな検討」についての原稿依頼があり、あまり知識のない私は、当時、大阪歯科大の川 原春幸教授が、生体材料について生体とのなじみや、金属よりもアルミナ・セラミックスの方が優れているという研究をされているのを思いつき、早速、川原教 授を訪ねてみました。その時、同席していた京都セラミックス梶i後に京セラ鰍ノ変更)の研究員2人に紹介され、これが日本におけるセラミックスの整形外科 応用への研究のはじまりだと思います。
  当時、私は37才の若輩者でしたので、年輩の方のヘッドとして、小谷勉教授(大阪市大)になっていただくべく強い意見があったのですが、私は当時、共に研 究をしていました敷田卓治先生(国立大阪南病院整形前任医長、その後大阪大学整形助教授となる)を強引にヘッドに仕立てました。
  なぜ、アルミナ・セラミックスなのか?当時、金属の腐食、金属イオンの生体内への溶出、金属の疲労破壊などが生体材料の問題点としてとり上げはじめられた頃でありますが、整形外科領域の先生方にはほとんど関心がなかったように思います。
アルミナは完全にBioinertであり、金属のような反応がなく、圧縮強度が金属よりも強く、またアルミナはぬれ性が良いので、生体とのなじみが優れているばかりでなく、潤滑性に優れ、人工関節に用いると耐摩耗性にも優れたものではないかと、期待がもたれていました。
  しかし、引っ張り、曲げに弱く、又、硬すぎるために、人工関節の摺動部以外には、荷重下では骨と生体力学的に適していないことが、後になって明らかとなっ てきました。また、アルミナは生体に対して悪い反応を全くしないので生体とのなじみが良い、すなわちBioinertといわれてきたのですが、これをあた かもBioactiveであるかのごとく誤解されて使われてきた時代がありました。すなわち、アルミナオールマイティと考えられていたわけです。
  また、もとにもどりますが、川原教授とお会いした当初は歯科領域では多結晶のアルミナが人工歯根として用いられていましたが、折損等の問題があり、川原教 授は更に強度のある単結晶のアルミナ(人工サファイヤ)を使っておられました。そこで、サファイヤをスクリュー・ピン・ロッド等に使ってはとのすすめもあ り、先ず、これからはじめることになりました。人工股関節の骨頭ボールに多結晶のアルミナが用いられはじめたのは1975年からです。
  その間、多結晶のアルミナビーズは骨欠損部の充填材として、又、骨腫瘍等の骨切除部に人工骨としてオーダーメイドの型でロッドとして用いられました。 これらのセラミックインプラント材は全国のいくつかの病院で使用されていましたが、1977年にこれらの臨床成績を評価するために、京都セラミック鰍フ主 催のもとに第1回整形外科セラミックインプラントコロキウムが京都に於て開催されました。
  その後もつづいて、1978年に第2回、1979年に第3回が開催され、特にサファイヤスクリュー、ピン、ロッドはいろいろな使い方がされ、また、人 工骨やビーズも広く使われていました。すべてが金属とは違った骨反応を示し、非常に興味深く、議論されていました。すなわち、非荷重部では、材料と骨の間 に形成される結合繊維膜の厚さは、金属よりもアルミナの方が薄いのですが、後になって、荷重下ではアルミナは硬すぎるために、生体力学的にはかえって生体 とのなじみが悪くなり、結合繊維膜の厚さが厚くなり、これが長期後にゆるみにつながる確率が高くなっていくことがわかってきました。
  これらとは全く違った発想の基にAW-GCの動物実験の結果が京都大学の中村先生から報告されました。これは、アルミナとは全く違ったBioactive ceramicsであり、当時、これを理解できた人はほとんど居なかったのではないでしょうか。私はたまたま青木先生(東京医科歯科大学)が発明されたア パタイトについて知っていましたので、AW-GCについては非常に興味深くきかせていただいたのを今も記憶に残っております。
  コロキウムは第1回から第3回迄1977〜1979年に毎年開催されましたが、当時、コロキウムの運営に積極的であった大井淑雄先生(当時、自治医大助教 授)達も加わって、京都セラミック鰍フ稲盛和夫社長を中心に議論された結果、コロキウムを発展的に解消して、整形外科セラミックインプラント研究会を設立 することになりました。事務局は全員の賛同のもとに国立大阪南病院に設置され、私が担当することになり、第1回研究会の会長にも任命され、1980年12 月第2土曜日に大阪の住友ビルで開催されました。
  特別講演には、整形外科へセラミック導入の手助けをしていただいた川原春幸教授(当時、大阪歯科大)に「生体材料と生体とのなじみ」について講演して いただきました。また、私にとってはじめてセラミックに興味を持つきっかけをつくっていただいたP.Boutin先生(Pau(ポー)/フランス)に「ア ルミナ・アルミナ人工股関節の臨床成績」について講演していただきました。
  この研究会には自由に又、多くの人達に参加していただけるように、簡単な会則を作り、開催日を12月の第2土曜日に定めました。また、記録を確実に残し、 国内のみならず、海外へも日本の学報を流すために、Proceedingsを発行し、Abstractと図表の説明を英文で掲載することにしました。10 数年間位は、世界の主な大学や施設にProceedingsを送ってきました。世界からも少なからず反響があり、時には、外国の論文の中に文献として、取 りあげられてもいました。
  国立病院では、研究費は微々たるもので、人材の不足と財政の困難から、京セラ鰍ニ住友製薬鰍フ絶大な協力の基で運営が行われてきました。 私は、第1回目 の研究会が終わった夜、この研究会を国際的に発展させたいという強い思いにかられ、このせつなる思いをはたせる時がやって来たのが、世界バイオマテリアル 学会が京都で開催された1988年でした。
  これより少し前から、青木秀希先生(東京医科歯科大)、澤井一彦先生(愛知医大)、辻栄治研究員(大阪府立産業総合技術研究所)、アドバンス梶Aその他ア パタイトの関連会社が中心になってアパタイトを中心とした人工関節の研究会を東京と大阪で開催しており、この時に、バイオセラミックスの国際会議を世界バ イオマテリアル学会の時に開催することを決議しました。早速、山室隆夫教授(京大)に会長をお願いしたところ、山室教授は世界バイオマテリアル学会のプロ グラム委員長であるために、会長を引き受けていただけないとのことで、私が会長の重責に任され、また、山室教授は国際会議の開催には多大の望みを抱いてお られたので、京大に全面的なサポートをしていただけるとのお言葉をいただき、結局、京大の多くの医局の先生方や、東京医科歯科・材料研究所の青木先生の研 究室の先生方に全面的にお世話になり、京大会館で第一回バイオセラミックス国際会議が開催されました。
  セラミックスに関する世界の第一任者のほぼ全員が京都に集っていましたので、この人達10数名に特別講演をお願いしました。その後、シンポジウム形式で議 論する場を作りましたが、議論がつきず、みのりのある1日があっという間に終わりました。外国からの聴衆者も多く、会場は人であふれかえっていました。
  この会議を是非続行したいとの声が世界からも多くあがり、学会名を「International Symposium on Ceramics in Medicine」と正式に命名し、会議は毎年日本、ヨーロッパ、アメリカで交互に開催されることになりました。私は第1回〜5回迄 (1988〜1992)会長を努めさせていただきました。
  限られた分野ではありますが、無力で無名の私が、国際的に名を知られはじめたのは、この会議がきっかけであり、私を支えていただいた多くの方々にはいつも感謝致しております。
 
(B)われわれが行って来たセラミックス人工関節・人工骨の変遷
  私たちが行って来たセラミック人工関節・人工骨の研究と臨床の歴史について簡単に述べます。
図1は日本における(京セラ梶jセラミック人工股関節に用いられたセラミック骨頭の変遷です。
 
 
図1 日本における人工股関節・セラミック骨頭(京セラ)の変遷
History of ceramic femoral head ball in Japan (Kyocera Co.)
In Japan, alumina femoral heads have been used since 1977. Between 1977 and 1987, the average grain size of Kyocera alumina was 5.6μm. The femoral ball size was always 28mm in diameter.Requirement for smaller diameter femoral heads in total hip replacement led not only to improvements in alumina quality but also to development of high mechanical strength zirconia ceramics. The average grain size of Kyocera alumina has dropped to 1.4μm since 1987.Zirconia balls were used in total hip replacements since 1989. Alumina on alumina THP was used since 1996.
   図2は私たちが使用してきた人工股関節の変遷です。セラミックス骨頭を用いはじめたのは、1977年からであり、25年になります。
 
 
図2 筆者らが使って来た人工股関節の歴史
History of our total hip prostheses.   
  最初に用いられたアルミナの粒径は平均5.6μmであり、強度に問題がありました。骨頭 ボールには直径28mmが用いられ、1987年より平均粒径が1.4μmとなり、強度が強くなりましたので、22mmに迄小さくしても使用に耐えられるようになりました。
  更に、1989年よりジルコニアが使用され、更に強度が強くなり、破損例も全国でみられなくなりました。われわれの施設では、破損例は全くありません。破 損の原因は手術時のあつかい方に問題があると思われます。 骨頭に金属よりもセラミックスを用いた方がsimulatorによる試験や、臨床例(レ−線 像、抜去例)から、ポリエチレン・ソケットの摩耗量は平均約20%減少することを確認していますが、それよりも更に重要なことは、ポリエチレンの厚さが 10〜11mm以上のソケットを使用すれば摩耗量は骨頭の大きさに影響されず、1/2に減少することを臨床例より確認しました。
  1996年より、われわれが、10数年前より計画していたアルミナ/アルミナの人工股関節が臨床応用されはじめましたが、他の施設で破損例の報告があり、 現在はデザイン等の再確認と改良を行っております。しかし、われわれの施設では500例以上使用していますが、破損例はありません。これも手術手技や、手 術時のあつかい方によって大きく影響されると思われます。金属とアルミナの材料特性の基本的な違いを十分理解した上で使用することが極めて重要であると思 われます。
  表1はわれわれが考案し、使用してきた種々のアルミナ人工関節と人工骨の歴史です
 
 
表1 われわれが開発・使用してきたアルミナ人工関節と人工骨の歴史
History of alumina total joint prostheses and artificial bones
which have been developed and applied clinically by us.
  1975年よりセメント固定によるコバルト合金/UHMWPEの組み合せの人工足関節(TPR・リチャード社)を用いてきました。
その後、耐摩耗の向上を目的とし、金属の代わりにアルミナを用い、セメントレスの人工足関節を試作し、1978年より臨床応用をはじめました。長期成 績を観察した結果、脛骨側には海綿骨が少ないにもかかわらず、アルミナ・バックになっているため海綿骨を過量に切除する結果、骨透亮像の出現率が高く、脛 骨コンポーネントのゆるみの発生率も比較的高く出現しましたが、疼痛を訴えることが少ないために再置換例はありません。
一方、金属/UHMWPEのセメント固定例は脛骨の骨切除量が少ないために、骨透亮像の出現率が極めて少なく、ゆるみも無いので、現在は、われわれが 新しくデザインしたコバルト合金/UHMWPE人工足関節を界面バイオアクティブ骨セメント法(セメントと骨の間にHA顆粒を介在させる)を用いて使用し ています。
  1976年よりコバルト合金/UHMWPEのセメント固定による人工膝関節(Total condylar、 Zimmer社)を用いていましたが、これも人工足関節と同様に、セメントレスのアルミナ人工膝関節を開発し、シミュレーション試験の結果、摩耗が 1/10に減少することを確認しましたので、1982年より臨床応用をはじめました。これも足関節と同様に、セメントレスでは、骨透亮像の出現率が高く、 ゆるみの発生も比較的多くみられましたが、セメント固定をした症例には骨透亮像やゆるみは全く見られませんでしたので、後には、すべてセメント固定による デザインに変更し、しかも、界面バイオアクティブ骨セメント手術を用いるようになり、骨透亮像は少数例に部分的に見られることはあっても、臨床成績は極め て優れています。
死亡例や遅発性感染例から抜去したポリエチレンのSEM像では、対金属よりも対アルミナの方が極めて滑らかであることを確認しています。これからも、対アルミナは対金属よりもポリエチレンの摩耗が少ないことが明らかです。
  1983年よりセメントレスの人工肘関節を試作し、臨床応用を行いましたが、全例がRAであり、ゆるみが高率に発生しましたが、疼痛を訴える患者が一人も なく、関節の可動域も改善され、患者の満足度も高いために、再置換例はありません。1977年より人工骨として3症例に使用しましたが、荷重部では骨透亮 像の出現率が高くみられました。
  以上のようにアルミナやジルコニアのセメントレスの人工関節に骨透亮像の発生やゆるみの発生の頻度が高いのは、アルミナやジルコニアでは材料特性上金属の 様に自由にデザインができないことや、硬すぎるために荷重下では生体力学的になじみが無いからです。これを解決するためには金属の表面のみをセラミックス にすることが考えられます。その1つの方法には、金属表面にTiO2やTiN等をコーティングする種々の方法が考案されました。
1982年にわれわれは、大阪府立産業総合技術研究所との共同研究として、コーティング法にスパッターリング法を、更にはイオン注入法等をすすめてき ましたが、基底の金属が変形した時に、コーティング層にクラックが入ったり、剥離するために、かえって金属腐食を早める結果になることがわかりました。
そこで、われわれは、同じく1982年よりFe-CrにAlを4.5%混合して、1200℃程度に熱処理することによりAlが表面に析出し、これが空気中の酸素によって酸化し、表面にAl2O3が形成される材料を開発しました。断面ではAl2O3と 金属の界面ではサンゴ礁のような複雑に入り込んだ状態になり、金属を曲げてもアルミナにクラックが入りにくく、金属と同じようにデザインができます。 Smith-Nephew社が開発した酸化ジルコニウムは、鍛造ジルコニウム合金(ジルコニウムにニオビウムを加えた合金)を空気中で熱して表面をセラ ミック様に酸化させたものです。
 
(C)われわれが研究してきた、又は臨床応用してきたバイオアクティブセラミックス
   表2は私たちが行ってきたバイオアクティブセラミックスの歴史です。
 
 
表2 われわれが開発・使用してきたバイオアクティブセラミックスの歴史
History of bioactive ceramics which have been developed
and applied clinically by us.

  私たちは人工股関節手術を1968年よりはじめましたが、その後、骨セメントのゆるみが発生するようになり、これを見て、骨セメントが骨と化学的に結合するバイオアクティブ骨セメントがあればという夢をいだくようになりました。
一方、ポーラス材料に骨が侵入するというアメリカでの研究論文を見つけ、1971年に住友電工鰍フ協力を得て、ポーラス金属中への骨侵入の動物実験を 行った結果、400〜500μm大のポーラス中に骨が最も早く侵入し、最も強固に固着されることを確認しました。これは後になって、アメリカでも同様の結 果を出していました。
  1977年に、水酸アパタイトに関連して、住友化学鰍ニの出会があり、当時、歯科領域でリン酸カルシウムと有機酸とを練和する骨ペーストの開発研究をすす めておられた青木秀希先生(東京医科歯科大)とアドバンス鰍ノ紹介されました。動物実験を行いながら、改良を重ねてきましたが、硬化したセメントの圧縮強 度はPMMA骨セメントより強いのですが、引っ張り、曲げの力が弱く、又、骨内に充填する時に、出血していると、セメントが血液に溶けて、硬化しても強度 が著しく低下するために、骨セメントとして使用するのは不可能と判断し、実験を中止しました。その後、これにコラーゲンを加える実験を新田ゼラチン鰍ニ共 同研究を行ってきましたが、これも不成功に終りました。
  一方、1978年に金属に水酸アパタイトをコーティングするセメントレスの研究を住友化学鰍ニ共同研究をはじめましたが、コーティング層の剥離の問題に直 面しました。1971年にポーラス金属の研究を行っていましたので、ポーラスの上に水酸アパタイトをコーティングすれば、ポーラス中により多くの骨がより 速く侵入することが期待され、荷重部に用いても、ゆるみの発生が少なくなることと、水酸アパタイトの剥離は全く問題にならないことを予測して、ポーラス金 属として、住友重機鰍ェチタン合金ビーズをコーティングし、住友化学鰍ェ水酸アパタイトをコーティングする共同研究開発がはじまりました。荷重下での動物 実験を行い、2症例を臨床にも使用した結果、Stress shieldingの発生があり、疑問が残りました。ポーラス金属に水酸アパタイトをコーティングする方法を用いたのは世界で私たちのグループがはじめて です。
  一方、1980年代の初め頃にはPMMA骨セメントを正しく使用すれば臨床成績は術後10数年経過した時点では優れていることがわかり、これを更に良くす るためには、骨の表面に水酸アパタイト顆粒を塗布して、その上に骨セメント固定を行うことにより界面のみをバイオアクティブにすれば、骨セメントの強度に は問題がないので、優れた結果が得られるのではないかと推測していました。動物実験を行った結果、骨セメントは平面に水酸アパタイトをコーティングした材 料と同程度の骨との固着力が得られ、組織学的にも予想通りの結果が得られました。
  また、1982年に人工股関節の再置換の時に部分的にこれを応用した結果、この部分には骨透亮像が出現せず、優れた臨床成績が得られました。1987年よ り界面のみをバイオアクティブにするセメント方法、すなわち界面バイオアクティブ骨セメント法(Interface Bioactive Bone Cement ; IBBC)を全例に行い、stress shieldingの発生がなく、骨透亮像の出現が極めて少なく、極めて優れた長期成績が得られています。同種骨の使用のできなかった時代に骨欠損の多い 人工股関節の再置換時に金属メッシュと骨セメントを用いたり、アルミナや金属で人工骨を作成して使用しても必ずしも好結果が得られないことを経験してきま した。
  1984年に旭光学鰍ニの出会があり、水酸アパタイトを無償で提供していただけることになり、種々の骨欠損部や、人工股関節の再置換の時に骨欠損部に水酸 アパタイトのブロックを細片にして充填することにより、優れた臨床結果が得られましたので、1985年より大量の骨欠損をともなう再置換時に大量の水酸ア パタイトの顆粒を充填することをはじめました。骨壁欠損部を骨セメントで被覆しました。その時、住友セメント鰍謔闔。験の依頼があり、約5kg程、水酸ア パタイトを無償で提供されました。40例の中、2例に充填されたアパタイトがくずれましたが、これ以外の症例は充填されたアパタイトの形状に変化なく、ア パタイトは骨と結合し、臨床成績は極めて優れていました。同種骨が使えるようになり、骨壁欠損部を同種骨で被覆するようになって、充填されたアパタイトが くずれる症例は無くなりました。最近は更に荷重部にも骨のブロックを充填することにより、3週間以内で全荷重をはじめ、1本ステッキでも退院しています。
  1980〜1997の間に種々の大きさ(1〜3μm、10μm、100〜300μm)のアルミナと種々のバイオアクティブセラミックスの骨反応についても比較しました。
溶解性のバイオアクティブセラミックスには、非晶性HA、OCP、TeCP、TeDCPD、TeDCPA、α-TCP、β-TCPを、表面バイオアクティブセラミックスにはBioglass、AW-GC、HAを用いました。
家兎の大腿顆部に施されたドリル孔の中にこれらの顆粒を充填しました。100〜300μmの溶解状のセラミックスは新生骨に取り込まれながら骨稜を形 成し、骨に置換されていき、表面バイオアクティブセラミックスでは顆粒間に新生骨が侵入してセラミックスと結合していきます。
新生骨の量は、Bioglassが最も多く、次にAW-GC、最も少ないのはHAです。
10μm大ではHAは3週後に骨稜の中に取り込まれていきますが、6週後には再度、排出されます。溶解性のOCPと非晶性HAは骨稜に取り込まれ、骨 に置換していきます。10μm大のTeCP、TeDCDP、TeDCPAでは、顆粒塊の周囲に新生骨が取り囲み、順次骨に置換しますが、α-TCP、β- TCPは溶解速度が遅いので、骨に置換する速度が遅くなります。
1〜3μm大では顆粒塊の周囲を骨が取りかこむのみです。100〜300μm大のBioglass、AW-GC、HA顆粒を充填した顆粒間への新生骨 稜と速度を比較しますと、Bioglassには2日後にAW-GCには3日後にHAには1週後に骨新生がみられ、侵入骨量はBioglassでは初期に極 めて多く、次にAW-GCです。HA顆粒間への侵入骨量は6週迄増加しますが、その後は増量しません。Bioglassは12週後より溶解がはじまり、 AW-GCは24週後より溶解がはじまりますが、HAは溶解しません。臨床応用する場合、以上の特性を知った上で、使用することが極めて大切です。
100〜300μm大のアルミナとHA顆粒間への侵入骨量を比較しますと、アルミナの方が多いのですが、骨とアルミナは結合していません。興味のある現象です。
  私が過去約35年間、人工骨・関節の研究・開発のためにバイオマテリアル、バイオメカニクスを中心に研究と臨床をすすめて参りましたが、その中でバイオセラミックスに関して、私が歩んで参りました足跡をここに辿ってみました。
1974年から今日に至るまで、私のバイオセラミックスの研究と臨床の成果は、下記の多くの先生方、研究機関・企業等の絶大な御指導と御協力のお陰であります。ここに深く感謝致します。
  大阪歯科大学(川原春幸教授)
東京医科歯科大学(青木秀希先生)
京都大学(医療工学研究センター、整形外科)
大阪府立大学(工学部)
大阪大学(工学部、整形外科、放射線科、歯学部)
東京大学(工学部 立石哲也教授)
国立身体障害者センター
国立循環器病センター(放射線科)
国立癌センター(放射線科)
北海道大学(整形外科)
大阪市立大学(人工関節グループ)
大阪府立産業総合技術研究所(辻栄治主任研究員、及び、研究グループ)
通産省、科学技術庁、厚生省
ファインセラミックス・センター
京セラ(株)
住友グループ(化学、セメント、 重機、電工、金属、製薬)
ミズホ医科(株)
旭光学(株)
アドバンス(株)
新田ゼラチン(株)
センチュリー・リサーチ・センター(株)
Ian. C. Clarke(米)
L. L. Hench(米)
J. Wilson(米)
J. J. Herbert(仏)(故)
P. Boutin(仏)(故)
P. Sedel(仏)
P. Rabischong(仏)
Y. Y. Kim(韓)
小谷勉教授(大阪市大)(故)
敷田卓治助教授(大阪大学)(故)
国立大阪南病院整形外科・スタッフ、レジデント、研修医
 
著:大西啓靖( 医療法人寿会富永病院  大西啓靖記念人工関節研究センター)

 

 
 
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